歩きながら考える

発行日: 2021年 07月01日
季報: 夏 第102号 掲載

住職 及川玄一

 ウォーキングを始めて二年半、週三日ほど七、八キロを目安に歩いています。青梅街道を環七までの往復で約八キロ、神宮球場までなら七キロです。球場の隣にオリンピックのメイン会場となる新国立競技場が出来上がっていく姿を眺めるのも楽しみでした。大きく壮麗な施設は、将来にわたって長く使われる誇らしいレガシー(遺産)になるはずでした。しかし一転、コロナウィルス禍の今、大会中止に伴う負の遺産化を懸念しています。

 抗ウィルスワクチンの接種が始まろうとしているころ、日本の接種率は他の国に比べて大きく立ち遅れていました。一方、先頭を行くイスラエルの成功の理由を挙げる解説のひとつに「緊急時における政府、国民の意識が高いからだ」というものがありました。この度も繰り返されたパレスチナとの武力衝突を念頭に置いてのことでしょう。

 日本にとっては遠い話のように聞こえますが、この「緊急事の意識」を見過ごせない国は多いのです。七十三年前のイスラエル建国以来パレスチナと、かれらを同胞とするアラブ諸国との争いは続いてきました。そしてエルサレムは、ユダヤ教、キリスト教とともに、イスラム教にとっても聖地です。長い対立には人種、宗教の問題が深く関わっています。

 人種・国籍問題に限れば、日本人が、黄色人種として差別される側にあった歴史や、日韓の歴史などから私たちにも感じ取ることがありましょう。しかし宗教的対立を実感する機会はなかなかありません。日本は宗教をめぐって他の国と対立したことがなく、ユダヤ教、イスラム教、キリスト教のような一神教が文化の基礎となっている社会、国家とはその有り様が違うからです。一神教の世界では唯一絶対神以外は存在しません。日本人にはわかりにくいところです。

 日本では、多神教である自然崇拝的な神道的土壌に、中国文化の影響を受けたやはり多神教の仏教が根付き、近代になって西洋文化を受け入れる中でキリスト教的価値観が加わってできた社会です。多神教が文化的な基盤になっているため、神様がたくさんいらっしゃることに違和感を覚えません。

 私自身は多神教文化の中に暮らすことに安らぎに似たありがたさを感じますが、多神教、一神教の優劣は、なかなか論じられるものではありません。大事なことは、それぞれの違いをきちんと認識しておくことです。コロナ禍で国境を越えた人の出入りが一時止まっているとはいえ、日本という国はそもそも、世界とつながり良い関係を保つことで成り立っています。自分の立ち位置を知り、他者を知ることが正しい理解を生む第一歩であると思います。

住職染筆の棟札。
事業円成の報告と末永きご守護を、仏さまと法華経を守護する諸天善神に祈願しています。

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