謹賀新年

発行日: 2024年 01月01日
季報: 冬 第112号 掲載

住職 及川玄一

 本年もよろしくお願いします。

 十二月初旬、インドネシアのジャカルタとインド洋の島国、スリランカを訪ねた。コロナ禍で延期していたジャカルタ・蓮華寺の落慶式に参列するためだ。

ジャカルタ蓮華寺落慶法要参列の皆さん

ジャカルタ蓮華寺落慶法要参列の皆さん

 インドネシアで日蓮宗の布教活動が始まったのは三十年ほど前から。宗門が主導した活動ではなく、ジャカルタにあったお題目を信仰するグループの要請によるものであった。蓮華寺本堂の建築はすべて現地信徒が主体となって進め、荘厳から仏像の製作まで実に立派な伽藍を作り上げていた。

 ジャカルタの後、スリランカのコロンボ郊外にあるお堂にもお参りした。こちらも今は信徒リーダーの自宅をお堂としているが、隣接地に本堂を建設中である。

 インドネシアは人口の約八七%がイスラム教徒(仏教徒は〇・七%)、スリランカは七割が仏教徒であるが基本的には上座部仏教(小乗)に属し、同じ仏教徒であっても日蓮宗と交わるところは少ない。そういう二つの国になぜ日蓮宗を信仰する人たちがいるのだろうか。私がかつて赴任していた米国のお寺は明治時代に渡航した日本人が設立したお寺ばかりであり、信徒の多くは渡米以前から日蓮宗に縁があった日本人とその子孫であり、現地人の信徒はほとんどいなかった。何らかのきっかけで日蓮宗の教義に触れて、信仰に入る方がいることは喜ばしいことではあるが、不思議なことでもある。

 ウクライナでの戦争に終焉の気配は見えず、新たにイスラエルとイスラム原理主義組織ハマスとの戦闘も起こってしまった。誰しもが平和を望んでいるはずなのに、なぜ戦争がなくならないのだろうか。領土、人種、民族、宗教、主義、歴史…。原因は複雑に絡んでいるに違いないが、為政者やその国の人々に利己的な意思が潜んではいまいか。

 辰年の正月を迎えた。龍は想像上の動物だが、仏教を守護する神として伽藍の彫刻や天井画にもその姿を見る。落慶したお寺の天井にも描かれていた。龍は天を舞って雲を呼び、雨を降らせるという。雨は大地を潤し、草木はそれによって成長する。まさに恵みの雨であるが、自然は優しいばかりではなく、竜巻のように破壊的で恐ろしいものもある。

 古今東西、人は自然の恵みに浴し、同時に屈服することしかできないその脅威に畏怖の念を抱き、それを崇めてきた。自然崇拝こそ宗教の原点であろう。日本人が元日に初日の出を拝むこと、門松を立て、鏡餅を飾って五穀を守る神である歳神を迎えることも自然を崇拝する心の表れに他ならない。

 一年の計は元旦にあり、という。原点を大切にすることが肝要との教えである。どの民族、宗教にもその根底には必ず自然を崇拝する気持ちがあるはずだ。ならば、その共有する心、原点を確認し、拠り所とすることで平和な世の中を作る足がかりにできないものか。

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