陰のちから

発行日: 2023年 06月30日
季報: 夏 第110号 掲載

住職 及川玄一

 令和二年から延期されていた社会福祉・貢献事業に携わる日蓮宗僧侶の会議が仙台市で催されました。私は、五十年前に祖父が埼玉県熊谷市に設立した立正幼稚園の理事長を務めており、幼児教育に携わるという立場でその会議に出席しました。

 東京駅まで乗った電車内を見まわすと、マスクをしていない私は明らかに少数派、すっかり定着したノーネクタイでは多数派でした。新聞を広げたのは私ひとり、スマホをさわっていなかったのは勉強中の学生さんだけでした。世の中の流れには抗いがたく「長い物には巻かれろ」は処世の常套かもしれませんが、この光景にこれでいいのかと首を傾げました。

 私たちが関わる社会事業も、世の中の変化による影響を様々な角度から受けています。幼児教育や保育の現場では少子化問題に直面しています。地域の子ども人口が減少し、四歳児からの募集では園児の定員割れを克服できず、立正幼稚園では四年前にゼロ歳児から預かる保育園の機能を併せた認定こども園に形を変えました。これには、共働き家庭が圧倒的に増えたことも影響しています。長年ボーイスカウト活動を支援してきたお寺では、入団する子供が集まらないため団を解散したとの報告もありました。

 民生委員の団体からは地域社会に暮らす人同士のつながりが薄くなったこと、高齢者、独居者、生活困窮者の増加など、直面する問題が提起されました。民生委員の仕事は増える一方であるのに、後継者がいないといった切実な問題も伝えられました。その会議には他にも教誨師、保護司、民生児童委員等の代表者も出席しましたが、後継者不足は共通の問題でした。

 過去を振り返りますと、回覧板、隣組、老人会、町会など、地域が密着し、住民がそれぞれに役割を担って、行政の手が届きにくい地域社会を支える任を果たしていました。人の交わりはプラスだけではなくマイナスを生むこともありますが、報酬のためではない奉仕的な活動が社会を維持する大切な力として活きていました。

 便利な機器を利用して効率的に人と社会をつなぐこと、労働量を減らすことなど、社会は今後も変化していくはずです。変わること、今まであったものが無くなることは「諸行無常」の摂理に適っており避けられません。一方で日蓮聖人は「陰徳あれば陽報あり」との言葉を残されました。人の目の届かないところで積まれた功徳が明るい知らせを運んで来るという意味です。私はこの言葉もまた世の中にあっていつまでも変わることのない真理であると思います。明るい社会は縁の下の力持ちがいてくれてこそ築かれるのです。

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