時が人を作る

発行日: 2021年 03月01日
季報: 春 第101号 掲載

住職 及川玄一

 二月九日、いちばん大きな荘厳仏具である天蓋が修繕を終えて本堂に戻されました。大工事であった東・北区画墓地の塀の架替えも同じ日に終了しました。宗祖のご降誕八〇〇年慶讃事業として取り組んだこれらの事業には多くの檀家様から浄財をお寄せいただきました。改めて御礼申し上げます。

 事業の趣意書をお送りした時点ではこの春に慶讃法要を営み、お披露目をさせていただく予定でしたが、新型コロナウイルス禍の行方はなお見通せないことから、延期することといたしました。事態の回復状況を見ながら改めてご案内させていただきます。

 人との交わりが減り、諸々考えることが多くなりました。その中で宗祖が、自然災害や外国からの脅威に苦しむ民の姿に深く心を痛めておられたことに、改めて思い至りました。聖人は『報恩抄』に「日蓮が慈悲広大ならば、南無妙法蓮華経は万年の外未来までもながるべし。日本国の一切衆生の盲目をひらける功徳あり。無間地獄の道をふさぎぬ。この功徳は伝教(大師)・天台(大師)にも超え、龍樹・迦葉(釈尊の高弟)にもすぐれたり。極楽百年の修行は穢土の一日の功に及ばず。正像二千年の弘通は末法の一時に劣るか。これはひとえに日蓮が智のかしこきにはあらず。時のしからしむるのみ」と述べられています。

 「時のしからしむる」とは「時代がそうさせた」ということです。聖人が生きた時代は仏教的解釈では末法の世です。ご自身では幼少から青年期にかけての仏道修行を通じて、今のこの国には正しい仏教が伝えられてないことを感得されました。現実社会では鎌倉幕府による政治が乱れ、天災が幾度となく襲い、外敵(元寇)に脅かされていました。人々が平穏に日常を送ることができない世の中でした。

 しかし、聖人はそのような時代こそが自分を作ってくれたのであり、能力や努力によるものではないとおっしゃいました。

 本寺には、この春大学を卒業する随身生がいます。最後の一年間は一度も通学することがありませんでした。新入生もまたリモート授業のみで学年末を迎えました。僧侶の資格を得るための身延山での信行道場も開かれず、そのための努力をしていた人たちも足止めをされています。楽しいはずの時間、望んでいた時間が得られない辛さを経験しています。

 そんな彼らと毎朝本堂で読経します。できるだけ大きな声で、清々しく仏さまに呼びかけるように心しながら。皆さまのご先祖さまにも、災害や不慮の事故で亡くなられた方にも祈りが届くようにとお題目を唱えています。そして一日も早く世界から疫病が退散するようにと。

 ウイルス禍の収束を待ちながら感話会、お自我偈道場、諸行事を再開します。日蓮聖人ご生誕八百年の記念すべき年であり、困難なときであればこそ、皆さまとともに大きな声でお題目を唱えていきたく思います。ご来山をお待ち申し上げます。

仏さまが私たちを導く光明や徳の現れといわれる天蓋。私たちも徳を積み、仏さまのように頭上に天蓋が差し掛けられる者になろうという願いも込められている。

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