「水子供養に思う」

発行日: 2022年 11月01日
成子新聞: 第22号 掲載

令和4年9月20日 法華感話会 法話

「水子供養に思う」

住職 及川玄一

 

彼岸

 荒天の中をお集まりくださいましてありがとうございます。皆様のお姿に信仰の深さというものを教えられている気がいたします。

 今日はお彼岸の入りです。三連休と三連休にはさまれた平日の彼岸入りとなりました。いつもでしたらお中日、秋分の日にたくさんの方がお墓参りをされますが、今年に限っては日が読めず、お花の準備、交通整理の手配など、頭を悩ませながら入りを迎えたようなところです。

 多くの方が彼岸イコールお墓参りと思っているようですが、本来の彼岸はお釈迦さまが説いた中道の教え「偏らない心、怒り・妬み・貪りを慎む」を身に照らし、自分の振る舞いを調整するための期間として伝えられたものです。

諸行無常

 秋の季報で鴨長明「方丈記」の文頭の一文を紹介しました。

   ゆく河の流れは絶えずして
   しかももとの水にあらず
   よどみに浮かぶうたかたは
   かつ消えかつ結びて
   久しくとどまりたるためしなし

 人の命とその無常を川面に浮かぶあぶくに喩えた文章です。川の流れは時の流れを意味し、一瞬の時の中にあぶくが浮かび上ってくる、私たちがこの世に産声を上げた瞬間です。川面にはたくさんのあぶくが浮かんでいます。あぶくは生まれたと同時に下流へ下流へと流されていきます。みな同じあぶくのように見えますが、よく見ていると、すぐにはじけてしまうものもあれば、ずいぶんと下流まで流れていくものもあります。けれども、その長さに違いはあっても消えないあぶくはありません。

淀橋七地蔵と新宿水子地蔵

 今日の法要では境内にある淀橋七地蔵にお祀りする七人の子供たちのみ霊への供養、新宿水子地蔵にお祀りする水子各霊位への供養をさせていただきました。

 淀橋七地蔵は昭和初期、この界隈で起きた幼い子供に対する残虐な殺人事件で命を奪われた七人の子供たちを供養するために建立されました。地域の人々、特に助産婦、産婦人科医の方々がその発起人となり当山に働きかけて建立された経緯があります。

 以来、九十年以上この寺で護られてきましたが、今でもお地蔵さまにはお花やお菓子、おもちゃなど、たくさんの子供を思うお供え物が供えられています。昭和初期と今では世間のありようもずいぶん変わりましたが、悲しい思いをする幼子、女性がいることは変わりません。お地蔵さまに手を合わせる人が多いのはみなその辛さを共有しているからではないでしょうか。

 新宿水子地蔵のご縁なのか、水子供養の依頼がときどきあります。いろいろな事情があるのでしょう、男女で来られる方もあれば、女性一人で来る方もいらっしゃいます。水子となってしまった理由もさまざまです。親が誕生を楽しみに待っていたのに何らかのことで出生できなかったお子さん。親の都合で生むことができない、生みたくない等の理由で誕生できなかった子供もいます。

天寿と自然

 今、アメリカでは中間選挙を間近にして人工妊娠中絶が重要な争点のひとつになっています。中絶を認めない共和党と認められるべきだという民主党、二つの主張の対立です。

 私たちがいただいた命を「天寿」「天命」と言います。「天」には大きな自然の力という意味がありますから、私たちの命は大きな自然の営みの中から与えられた命と理解できます。ですから、私たちが生きる上で意識すべきことは先ずは自然であり、自然な生き方をすることです。何が自然かというと難しくもあるのですが、たまたま今日は台風の中をお越しいただきました。強風が吹いたときに風に向かって進もうと思っても進みません。風に飛ばされてしまう危険もありますから、身を守ることを優先しなければなりません。やり過ごす、これも自然に順応する知恵です。

 自然でないことを不自然といいます。不自然な行いは違和感を生じさせ、疲れやストレスを生む原因にもなります。すべての病気の原因はストレスの蓄積にあるとも聞きます。

 昔は年齢を数えるのに、誕生したときではなく母親のおなかに宿ったときを最初と考えました。子が母のおなかに宿ったときが命の始まりという考えです。私にはこの考え方の方が自然なことに思えます。

供養のこころ

 今日は淀橋七地蔵、新宿水子地蔵というご縁の中に法要をさせていただきました。人は生きているかぎり様々な死に接し、一つひとつその死を背負いながら生きて行かねばならない定めにあります。

 幼子、自分の子供を亡くすという経験は辛く、耐え難いものです。それでも生きているかぎり前に進まなければなりません。水子地蔵があること。それがきちんと護られていること。供養の法要が営まれていること。それらのことが少しだけでも辛い思いを抱えた人の荷を軽くする役に立つのであるのならば、それがこの寺の水子供養への思いです。

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