「不幸も幸運であり得る」

発行日: 2021年 12月14日
成子新聞: 第13号 掲載

令和3年11月20日 法華感話会 法話

「不幸も幸運であり得る」

住職 及川玄一

 みなさん、こんにちは。四月以来の感話会となりました。楽しみに出て来て下さった方もいらっしゃるのではないでしょうか。思っていたより多くの方がお越し下さり、また、男性が多いことも大変うれしく思います。

 日蓮聖人御降誕八百年慶讃事業としての本堂の修理を終えて一年がたちました。皆さんと一緒にお祝いの法要を営むことは叶いませんでしたが、六月二十日に山内僧侶だけで慶讃法要を営み一つの区切りとしました。

 ご寄付をいただいた方への感謝の一つとして制作した芳名板が数日前にできあがり、本堂の壁にかけました。また、皆さんの前に見えます巻物はご寄付下さったすべての方のお名前を記したものです。皆さんとご家族の現世安穏・後生善処を願う願文をしたためて奉納しました。

お寺のニュース

 先日、電気自動車を購入しました。地球温暖化の原因は石炭や石油などの化石燃料を燃やしたときに出る二酸化炭素といいます。ニュースではサンマが獲れない、鮭が川を上ってこない、それらも温暖化による海水温度の上昇が原因ではないかと言っています。大きな自然界の営みの事ですから、実際のところは誰にもわからないことですが、温暖化の原因とされる二酸化炭素の排出量をなるべく少なくしましょうという風潮に倣って電気自動車を使ってみることにしました。

 ただ、難しいと思うのは私たちが暮らすためのほとんどすべてのモノ・コトには石油や天然ガスなどの化石燃料が使われていることです。

 たとえば、ワクチンを一本打ってもらうのにもどれほどのエネルギーを使っているか。ワクチンを作る、ワクチンを入れる器を作る、それを日本まで運ぶ、そして皆さんがワクチン会場まで行くための移動、そのそれぞれで石油や石炭から得たエネルギーが使われています。気づかないことがほとんどですが、私たちの生活はエネルギー資源に支えられています。

 最近、SDGsという言葉をよく聞きます。日本語にすると「持続可能な開発目標」となるそうです。先の衆議院選挙でも候補者がよくその言葉を使っていました。具体的にどういうことなのかわかりにくいところですが、要は大事なものを末永く使っていけるように大切にしましょうということのようです。私たちがレジ袋のかわりにエコバッグを持ち歩くようになったのもそんな啓蒙活動の一環といえます。

松下幸之助さん成功の理由

 電球がエジソンによって発明され、その電球がやっと日本の家庭でも使えるようになった大正時代、誰もが簡単に電球の交換ができるようにとソケットを発明したのが松下幸之助です。松下電器産業は大きく成長し、今のパナソニックとなりました。明治二十七年、和歌山県に生まれた幸之助の生家は貧しくはなかったそうですが、父親が相場で失敗、その後の商売もうまくいかず、九歳の時に大阪へ丁稚奉公に出されます。

 のちに経営の神様といわれるようになると、しばしばマスコミから成功の秘訣を尋ねられます。そんなとき「私がここまで頑張ってこられたのには三つの理由がある」、一つは貧乏だったこと、もう一つは体があまり丈夫ではなかったこと、そしてきちんと学校に行けなかったこと、その三つが今の私をつくった大きな原因であると答えました。

 また、組織にとって大切な人材の確保について聞かれたときには飄々とした様子で「家柄や学歴で選ぶことはなく、とにかく運がいい人を選ぶ」と答えていました。人の運を見抜く眼力を持っているのかという問いには「あんたは自分が運のいい人間だと思うか?」とたずねれば良いだけのことと言い、自分は運が良いと思う人は「はい、私は運がいい人間です」と答えるものだと言いました。

東郷元帥の逸話

 これも古い話ですが、日露戦争がいよいよ開戦するとき、宮城で御前会議が開かれ、陸・海軍首脳がそろったその席で連合艦隊司令長官に東郷平八郎が指名されました。その時、明治天皇は「東郷という名前は聞かない名だが、どうしその男をこの大事な役に指名するのだ」と人選の根拠を尋ねられました。その下問に対して海軍大臣山本権兵衛は「東郷というのはとても運のいい男でございます」と答えたのだそうです。

 天皇陛下の質問に「運がいいから」と答え、天皇陛下もその返答に納得されたのか、それ以上は問わなかったとのことです。「運」というものの大切さを教える逸話です。

不運を幸運に

 運がいい、運が悪い、不運、幸運など、始終耳にする言葉です。「運」を辞書で引いてみると、「めぐってくる吉凶の現象」「幸・不幸」「世の中の動きなどを支配する人智・人力の及ばない成り行き、めぐり合わせ」とあります。では、世界的な災いの元凶となっているコロナ禍は、やはり悪い運のめぐり合わせということになるのでしょうか。

 昨日の新聞に大学を中退ないし休学する学生が増えているという記事がありました。アルバイトが無くなり生活費が不足する、あるいは登校できない大学に魅力を感じなくなったのかもしれません。いずれにせよ、疫病のような自分に直積的な原因がない事象によって学校に行けなくなることは不運です。とても幸運とは言えません。しかし、単純に不幸と言い切り、諦めましょう、仕方がないと終わりにして良いことでしょうか。

 松下幸之助は成功の原因をたぐっていけば、貧乏な家に生まれたこと、体が丈夫でなかったこと、小学校四年までしか学校に通うことができなかったことと言いました。不運・不幸は受け止め方次第で力の種になるものだと。幸之助は原点が不幸であったからこそ頑張ることができた、不運は決してただの不幸ではないということを我々に教えてくれています。

力は心から生じる

 頑張ろうという気持ち、不運を覆す力。それは心から湧いてくる力です。また、心が元気で健康でこそ、頑張ろうという力は湧いてきます。一方で心ほど弱くてもろいものもありません。有望なスポーツ選手でありながらなかなか勝利することができない選手に、ガラスの心臓という喩えで、心の弱さを指摘することがあります。しかし、心を鍛えるのは一朝一夕にできることではありません。

 でも、心は大切ですよね。私たちの生活の大部分は心に影響されていると言っても過言ではありません。晴れ晴れとした心持ちで生きられたらどんなに幸せだろうなどと思うことがあるのも、なかなかそんな風になれないからです。心の半分くらいにはいつも悩みや心配事を抱え、熟睡したことがないなどという人も多いのではないでしょうか。

 心が満足ならば、もうそれ以上に求めるものはないと言えるほど心は大切なものに思います。いつの時代、どんな時代であってもそのことは変わらないことです。

心を支える力に

 お寺の役割って何でしょうか。菩提を弔うという言葉があります。死後の冥福を祈ることです。亡くなられた方と、その方を送るご家族は心の関係が近しい間柄です。それだけ心に与える影響も大きくなります。

 冥福とは死後の幸福です。この世から旅立った大切な人が幸福に暮らすことができていると信じることができたなら、自分の心も楽になりませんか。

 仏さまがいて、ご先祖様がいて、お題目を唱える場所、そのお寺が、皆さんの心を支える力になるべきであると思っています。十分にお寺をお使いいただいて、皆さんの心が健康で元気になり、その元気がいくつになってもがんばろうという気持ち、不運なんて幸福の種だと思える、そういう元気を皆さんが持っていただければ何よりです。

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