「能くすれば明」

発行日: 2023年 04月15日
成子新聞: 第24号 掲載

令和5年3月20日 法華感話会 法話

「能くすれば明」

住職 及川玄一

 

桜の開花

 皆さん、こんにちは。お参りを下さいましてありがとうございます。境内の枝垂桜はほぼ満開を迎え、ソメイヨシノは六、七分咲きといったところでしょうか。春のお彼岸に満開の桜が見られるのは初めてのことです。かつては桜が入学式の風物でしたから、開花がずいぶん早くなっていることがわかります。

 一昨日は冷たい雨のお彼岸の入りでした。心配性なのでしょうか、いつ咲くかと待ち焦がれていた桜が咲き始めると、今度は雨や風で花が散ってしまうことが心配になります。今、目の前に咲いている花を存分に楽しめばよいのに、先のことを心配して寂しいような残念なような気持ちが出てきます。

 「桜散る 残る桜も 散る桜」。江戸時代後期の名僧、良寛和尚の詠んだ歌です。満開の桜が散り始める。枝を見ればまだ一生懸命咲いている桜もあるけれど、その桜も遠からず散っていく。和尚は命の儚さ、「諸行無常」の教えを散る桜に喩えました。

お彼岸に願うこと          

 今年は十八日がお彼岸の「入り」、二十四日が「明け」です。「明け」の日は「結願日」ともいいます。願い事を結ぶ、期間を決めて催した法会が終わるという意味です。お彼岸は入りから明けまでの一週間、特別な祈願をする期間なのです。今日の法要の中で、このような一節を唱えました。

 「願わくは一切衆生、いまだ貪りの心を離れざる者には貪りの心を離れしめ いまだ怒りの心を離れざる者には怒りの心を離れしめ いまだ愚痴の心を離れざる者には愚痴の心を離れしめ 総じて世出世間一切の偏邪を離れ中正なることを得、遠塵離苦して菩提の覚路に入らしめ給わんことを」と。

 「すべての人々から貪りの心、怒りの心、愚痴の心を取り除き、僧侶もそうでない人も邪な心、偏った心を正しく、真ん中に保てるように、心の塵、苦しみを除き、穏やかな仏の境地へと導いて下さい」。今日の法要で祈願した祈りの言葉です。

 貪りや怒りの例えとして、真っ先に浮かぶのがロシアのプーチン大統領です。強権的な権力者が貪りや怒りの気持ちをもったとき、どんな事が起るのか、今目の当たりにしています。プーチン大統領が特殊な人で、一般の私たちとは違うと思うかもしれませんが、果たしてそうでしょうか。

 日々に愚痴や怒り、貪りの心が行ったり来たりしている自分はいませんか。夫や妻、家族への不平不満。近所に暮らす人、スーパーの店員、宅配便のお兄さん、誰かに対してイライラしたり、怒ったことはありませんか。自分本位なために無自覚でいることもあるかもしれません。

ひるまず、怠けず          

 祈願文の中では「中正」という言葉を使いましたが、お彼岸は仏教の根本的な教えである「中道」を学び、それを修めることを誓うときです。

 昨日命日だった私の祖父が墨書した軸の中に、四書の一つ『中庸』からとった文言があります。

「人十たびにして之を能くすれば 己れ之を千たびす 果たして此の道を能くすれば 愚といえども必ず明 柔といえども必ず強なり」。

 人が十回でできたことを、愚かな私は千回するよう努力する。何遍も何遍も繰り返したなら、物わかりの悪い私でも必ずできるようになるはずだ。愚かであっても、明るく道は開ける。柔なものも、必ず強くなる。だから、ひるまず、怠けず努力をすることが肝要である、と教えています。

 話の冒頭で歌を紹介した良寛和尚は自分を「大愚」、大いなる愚か者と号しました。最大限に卑下した言葉ですが、良寛和尚の謙虚さと、上を目指そうとする意欲がその名に込められているように感じます。

 私たちは仏教の言葉でいうと「凡夫」です。迷っている人、並の人間という意味です。十回したら上手くできてしまうような優れた人間ではありません。

彼岸に至る修行           

 此岸、こちら側の岸に暮らす私たちが努力を重ね、彼岸という悟りの境地に到達することを「到彼岸」といいます。

 「桜は花に顕る」という諺があります。ほかの木とそれほど変わらない格好で立っていた桜の木が開花して、あっという間に美しい姿を見せることから、平凡とみられていた人が、なにかの折に非凡な才能や手腕を発揮するという意味です。

 「愚といえども必ず明」です。春分の日になにかの願(目標)をたて、まずは秋分の日を目指して続けてみたらいかがでしょうか。コツコツと続けること、それが私たちの歩む道です。

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