「活きいきと息をする」

発行日: 2023年 12月15日
成子新聞: 第30号 掲載

令和5年11月20日 法華感話会 法話

「活きいきと息をする」

住職 及川玄一

 皆さんこんにちは。今日は午後から風が出て冷たさを感じますが、よくお運びを下さいました。暦の巡りは早く、お会式を勤めたばかりと思っていたら、もう十一月も二十日。カレンダーを一枚めくれば残りはあと一枚です。

 今月の初めに成子会が大阪で開かれ、功刀、氏家両師にお供をしてもらい出かけてきました。十一月というのに半袖で歩けるような陽気でもあり、偶然にも阪神タイガースが優勝した翌日で、街は活気に満ちていました。

 成子会は私の祖父の時代から今までの間、常圓寺で起居を共にした人たちの同窓会です。会場は中央区中寺(多くのお寺が集まる寺町)、OBの一人、村尾泰孝上人が住職を勤める寶泉寺で、三十名ほどの会員が集まりました。

 最近まで常圓寺に勤めた若い人も多く参加してくれ、朝十時から午後三時まで約五時間をかけて「法華経一部八巻」、六万九千三百八十四文字を読誦し、今は亡き会員物故者の追善供養をさせていただきました。

新たな習い事

 お寺では三名の若者がこの一日から百日間の水行を初めました。水をかぶる朝の六時は寒い日だと五、六℃です。初めて水行にチャレンジする田代君に「どう、続けられそうかい?」と尋ねましたら、「ここのところで急に寒くなってきましたのでちょっと心配です」と正直な答えが返ってきました。

 「冷たい水をかぶることもそうだけれど、毎朝六時前に起きて、休まずに続けるということが一番の修行だから頑張って」と励ましたが、百日間というのはなかなかに長いものです。それ故に達成したときに得られる自信も大きいのですが…。

 実は私も新しいことにチャレンジしています。去年四月、思いきって合気道の道場に入門したのです。朝のお勤め(読経)、書道、ウォーキング、なんでもそうですが、継続することで微量ながらも進歩し、成果を得ることができます。

 「始める以上は継続する」と決めたとき、五十八で入門すると十年続けたときは六十八才、適当な運動を強いられる習い事をするには今がラストチャンスかなと思い、思い切って始めました。過去に武道を習った経験はまったくなく、一つひとつのことを身につけるのに若い人の何倍も時間がかかりますが、誰かに物を教えられたり、叱られるということが少なくなった自分には週二回の稽古が合気道の修得だけではない貴重な時間となっています。

呼吸で落ち着きを取り戻す

 合気道を始めてあらためて気づいたことは、肩の力を抜くこと、自然体の大切さと自然体でいることの難しさです。例えば、お経を読む時にも肩に力が入っていることに気づくときがあります。余計な力が入ると伸びやかな声が出ません。

 私は祖父の写経を印刷したお経本を使っていますが、ところどころ字に変化や乱れがあります。祖父の写経を講評するなど実におこがましいことですが、「お祖父さん、この字を書いている時に気が散っていたのかな」などと想像してしまいます。面白いもので、リラックスしてお経を読んでいたはずが、そんなことを考え始めると伝染するというのでしょうか、私の読経のリズムにも動揺が生じてきます。自然体でいられなくなるのです。

 何かミスした時などもそうですが、慌てると呼吸が速くなり、気持ちから余裕が奪われてしまいます。よく緊張しているときに深呼吸をしなさいといわれますが、ゆっくり息を吸いこんで静かに長く吐き出すことで、呼吸が整って肩から力が抜けていきます。

「生き」と「息」は同じ

 今日の法要では、お題目を五十遍ほど唱えました。四分弱だったと思いますが、その間、私は二十回ほど呼吸をしました。成人の呼吸数は一分間に十二から二十回ですから、四分弱で二十何回はとても少ないことになります。お題目を唱えるときに息継ぎが少ないのはたぶん丹田で呼吸をするように鍛錬されているからだと思います。丹田、臍下三寸です。丹田で呼吸をすることで自然と息が深くなります。

 人が一生にする呼吸の数はだいたい同じで、五億回という説があります。この説に基づくと、呼吸の間隔が短いと早くその数に達し、長ければ達するのに時間がかかることになります。到達までの時間が命の長さということになります。慌ただしい呼吸は寿命を縮め、長い息をすれば、長生きになるということです。いい息がいい生きを与えてくれるといえるかもしれません。「生き」と「息」は深く関わっています。

 息を吸って吐き出すこと、それを繰り返すことは一番基本的で大切な身体運動のはずですが健康な人には当たり前のことすぎて関心を払いません。

良い息が良い時をつくる

 仏教の代表的な修行法に座禅・瞑想があります。日蓮宗の修行では座禅を重要視しませんが、お題目を繰り返し唱える「唱題行」を大切にします。座禅は入れる息、出す息に意識を向けることから始まります。身体活動の根本に目を向けるわけです。

 お題目を唱えるときに私たちは息を意識することはありませんが、唱題行をすることで自然と長く深い呼吸をする習慣が体に与えられます。根本を鍛えるわけです。日々の生活に、特に一日の始まりである朝にお題目を唱える時間を持つことは清々しい一日を過ごす秘訣です。すべての基本は息にあります。良い息をする人に良い生きはついてきます。

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