「縁を活かす」

発行日: 2023年 05月15日
成子新聞: 第25号 掲載

令和5年4月20日 法華感話会 法話

「縁を活かす」

住職 及川玄一

 みなさんこんにちは。よくお参りを下さいました。四月に入り、今日はずいぶん暖かな陽気です。本堂を出たところのソメイヨシノには遅咲きの桜がわずかばかり残っておりますが、すっかり新緑の季節になりました。

 今日はたくさんの僧侶が出座しました。今月からはマスクを外して法要を勤めています。声の通りが良くなり、読経の迫力が増したように感じましたが、いかがでしたでしょうか。

野球で培った「声」

 普段から滑舌よく大きな声で、朗々とお経を読むように心がけていますが、そのためには姿勢を良くすることが大事で、背筋を伸ばし、胸を開いて、腹の底から声を出します。

 ときどき「お経の声は修行で鍛えられたのですか」と尋ねられます。もちろん日日の勤行は大切にしていますが、正直に答えると私の場合はそうでもないのです。小さい頃から野球好きだったのですが、足が早い、速い球を投げるといった素質には恵まれていませんでした。それでも何とかベンチに入りたい、試合に出たいと思い、練習中も、試合の時もいつも精一杯声を出して応援しました。大きな声に気合いを込めてです。高校まで野球を続けていましたから、結構な年月ひたすら声を張り上げていたことになります。習慣と言いますか、そんなことで今でも大きな声が出せていると思っています。

『成子新聞』発行の意義

 感話会で話したことを文章に直し、『成子新聞』を作っています。声は大きいので皆さんに届いていると思いますが、内容がどれくらい伝わっているのかはわかりません。仏教の難しい言葉も時には使いますので理解が不十分なこともあるかもしれません。また、欠席された方に読んでいただくのはもちろん、お手元に届くことで「そうだ、二十日はお寺に行かなきゃ」と思い出してもらうこともこの新聞の役割です。

 それにしても話したことを文章にするのは一苦労です。まず一つに私が話者として上手に喋れていないということです。毎回録音をしたものを文字に起こしてもらうのですが、上がってきた文章を読むたびに話が下手なことに落ち込みます。勉強にはなりますが、情けなさを味わう作業でもあります。

大谷選手、活躍の裏で

 先月は「目標をもってコツコツと積み重ねることが大事だ」という話をしました。春のお彼岸に何かを発願し、半年後の秋のお彼岸にその継続を確認してみる。お彼岸をそういう機会として利用してみてはどうですかという提案でした。

 お彼岸が終わって、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が始まりました。今もって盛り上がりの余韻が残っていますが、なかでも注目され続けているのが大谷翔平選手です。二刀流といえば昔は宮本武蔵でしたが、今はすっかり大谷選手です。

 大谷選手は今、ニューヨークに遠征してヤンキースの本拠地で試合をしています。ニューヨークはアメリカ一の大都会です。昨日の試合後、記者から「ニューヨークのお気に入りの場所は」という質問が出ました。すると大谷選手は「今まで一度も宿泊先から出たことがない」と答えました。予期せぬ返答に日米の記者はとても驚かされたようです。

 大谷選手はその理由については話しませんでしたが、休息を優先し、体力の回復に務めることを最優先と考えているのではないでしょうか。ですから大谷選手にとっては食事も外食などをして楽しむものではなく、適切な栄養を補給するための手段になっているのではと想像します。やるべきことを見定めて、ブレずに継続するその姿に感服するばかりです。

目の前のことを黙々と

 話は変わりますが、最近はほとんどの小学校から二宮尊徳公の像が撤去されてしまったそうです。五十年前に私が通った小学校には石像がありましたが、子供たちのよき模範として建てられた人物像をどんな理由で取り除くのかわかりません。勤勉は美徳ではなくなってしまったのでしょうか。

 その尊徳公の残した言葉に「この秋は雨か嵐かしらねども 今のつとめに田の草をとる」という句があります。草取りとありますから、今時分から夏頃のことでしょうか。今年の秋がどんな秋かはわからない。台風が来るかもしれない、日照が足りずに不作になることもある。それでもこの季節にやるべきことは田んぼの草を抜くこと。先のことはわからないけれども、今やるべきことをきちんとやる。そんな言葉だと思います。

 「暑き日を暑がる今日こそ嬉しけれ 冷たくなりし人と比べて」、これも公の句です。

 あと二ヶ月もすると、私たちも「暑い、暑い、耐えられない」と言い始めます。「感話会にも必死で来ました」と。でも、暑いと言えることが実はありがたいこと、幸せなことで、冷たくなってしまったらそれまでだと尊徳公はスパッと言い切ります。生きていることに喜びを感じ、今できることをしっかりやろうという励ましです。

お釈迦さまの功徳をいただく

 仏教に「因果応報」という言葉があります。「悪いことをしたら、その報いを受ける」というように、悪事に対する戒めとして使われますが、本来は「良い行いには良い結果がついてくる」という意味も持っています。

 法要の中で日蓮聖人が佐渡流罪中に書かれた『勧心本尊抄』の一節を読みました。

 「釈尊の因行果徳の二法は南無妙法蓮華経の五字に具足す。我らこの五字を受持すれば自然に彼の因果の功徳を譲り与えたもう」

 「釈尊」とはお釈迦さまの別称、「因行果徳」は因果と同じ意味です。因行果徳の後に「二法」とあるのは、一つはお釈迦さまが一生懸命修行をした修行法(因行)、もう一つはお釈迦さまが修行をした結果として得た悟り(果徳)を意味しています。

 お釈迦さまは出家者として人生をかけて修行をし、三十五歳のときに悟りを得られました。日蓮聖人はその功徳を私たちが譲り与えてもらうことができると書いているのです。すごいことです。そして、その方法として「我らこの五字を受持すれば」と言っています。「五字」とは「妙・法・蓮・華・経」のことです。「受持」はしっかりと受け止め、抱きしめて離さないことです。

 「妙法蓮華経」を受け取り、抱きしめ続けたならば、自然とお釈迦さまの悟りの功徳を私たちはいただくことができると日蓮聖人は諭しているのです。この言葉は私たちの信仰の肝心です。「南無妙法蓮華経」と心に唱え、声にして唱えることが受持するということです。

縁を活かす

 「牛にひかれて善光寺参り」という諺があります。善光寺近郊に住む老婆が庭に干した洗濯物を牛が角に引っかけて逃げてしまいます。老婆は慌てて牛を追いかけます。夢中で追いかけていたので、ここはどこだろうとあたりを伺ってみたところ、そこは寺の境内でした。この時、近くに住んでいながらお参りもしたことがなかった善光寺と老婆の縁が生じました。そして、その縁をきっかけとして老婆の信心が始まったという話です。たまたま起きたことをきっかけに思いがけない縁が結ばれることの喩えとして使われます。

 私たちはこのお寺(常圓寺)に縁が生じたことで「妙法蓮華経」に出逢う縁をいただきました。また、その縁から「妙法蓮華経」を受持する機会が生まれました。出会っただけでは十分ではありません。せっかくの生じた縁は大切に活かすべきです。この感話会の意義は、みなで一遍でも二遍でも多く「南無妙法蓮華経」を唱えることにあります。それがお題目に出会った縁をもっとも活かすことになるからです。

 今日紹介した『勧心本尊抄』の一節があらためて皆さんの信心を励ます言葉となり、その励ましが『法華経』を受持する力となってくれることを願っています。ご聴聞ありがとうございました。

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