「いのち」はなぜ尊いのか

発行日: 2019年 08月10日
成子新聞: 第2号 掲載

「いのち」はなぜ尊いのか

住職 及川玄一

 本格的な夏がやってきました。

 「毎月の月はじめに発行!」と決めてスタートしましたが、創刊号からつまずいてしまいました。

 また、『成子新聞』には毎号「感話会」の法話を掲載と考えていますが、7月は感話会がおやすみでした。そこで今回は、「いつか法話のテーマに」と住職があたためていたお話(新聞記事)を掲載します。創刊号、2号とイレギュラーなスタートとなってしまいましたが、何かを考えるキッカケ、ヒントにしていただけましたら幸いです。


平成18年11月29日付産経新聞「正論」より転載
「いのち」はなぜ尊いのか 
筑波大学名誉教授  村上和雄

38億年の命のつながり

 命を粗末にする事件が続発している。小・中学生が「いじめ」などで自殺している。さらに親は子を殺し、子が親を殺すという信じがたいことが起こっている。

 生命科学の現場に50年近くいる者の立場から、命とは何か、命はなぜ尊いのかについて考えてみたい。

 約38億年前、地球上に最初の生物が誕生した。そして、すべての生物の設計図は遺伝子によって受け継がれてきた。その遺伝子を変化させることにより、数千万種類とも言われる生物が生まれ、人類が誕生した。

 私たちの遺伝子は、38億年間一度も途切れることなく、受け継がれてきた。この間に一度でも事故が起これば、ヒトは存在しなかったはずだ。38億年という気の遠くなるような時間をかけて、ヒトは選び抜かれてこの世に誕生した。

 いま私たちは、子供をつくるというが、それは傲慢だと私は思っている。世界中の優れた技術や学者をすべて動員しても、世界の富をすべて使っても、たった1つの大腸菌すらゼロからつくれない。

 何故なのか。それは細胞1つ、どうして生きているのかについての根本的原理を、生命科学者は全く知らないからである。1個の細胞についても分からないことが多く残されているのに、ヒトは約60兆の細胞から成っている。60兆という数字は、地球人口65億の約9000倍である。

この世の最高傑作は生命

 ヒトの身体は膨大な数の細胞から成っているのに、どうして争いもなく、見事に生きていられるのか。ヒトの場合、約300種類もの異なる細胞が器官や臓器をかたちづくっている。そして、細胞や臓器は助け合いながら個体を生かす働きをしている。

 これは自律神経の働きとして説明されているが、自律神経を動かしているものは何か全く分かっていない。私は、この見事な助け合いのために必要な情報は、遺伝子に書かれていると考えている。

 ヒトの身体では、細胞同士、臓器同士が見事に助け合っている。遺伝子にも利他的な働きをする情報が存在すると、私は思っている。

 細胞1つ元からつくれない私たちが赤ちゃんを人間の力だけでつくれるわけがない。

 親は受精卵をつくるのに少しだけ協力し、あとは栄養を与えているだけだ。1つの受精卵から、わずか38週間で、約60兆個の細胞からなる赤ちゃんになる、その設計図を書くのは人間ではない。

 1個の受精卵からヒトの赤ちゃんになる間に、胎児は生物の進化の歴史を繰り返すといわれている。胎児は、わずか38週間で約38億年の生物の進化の歴史を経過することになる。したがって、ヒトは地球生命38億歳である。

生かされている命に感謝

 いま、生きる自信を失いかけている人に聞いていただきたい。宇宙は今から137億年くらい前に極微の1点が大爆発(ビッグバン)を起こして始まったといわれている。そして、ビッグバンの直後に

生じた水素原子は現在、生き物の中に残っている。ヒトの身体には、宇宙の進化の歴史が凝縮されている。

 どんな未熟な人も全宇宙を背負って生きている。命は自分だけのものではない。そういう意味で命は尊い。自分の命も、他人の命も、壊すのは簡単だが、一度壊したら二度とつくれない。命を粗末にすることは、大自然が137億年もかけて作り上げてきた最高傑作を無駄にすることになる。

 この世に生まれてきたこと自体、途方もない奇跡的な出来事なのだ。生きているだけでも有り難く、素晴らしいことだから、自殺も他殺も絶対にしてはいけない。この世に生かされていることに感謝しよう。

 私たちは自分の力で生きているように思っているが、自分の力だけで生きている人など地球上に一人もいない。太陽、水、空気、動植物、地球などや目に見えない大自然の偉大な力(サムシング・グレート)のおかげで生かされているのである。

 遺伝子レベルで見ると、遺伝子は一人一人違う。それは誰もが、かけがえのない人間として生まれてきたという意味だ。他人と比較して生きるのではなく、自分の花を咲かせるために、オンリーワンとして生まれてきた。

 これらの事実から、私たちは生まれてきたことを喜び、生かされていることに感謝すれば、多くの眠っている良い遺伝子の働きがオンになる。あきらめず、努力し続ければ、必ずあなたの遺伝子は目覚め、限りない可能性を引き出せると思っている。

人気の成子新聞

2022年 01月14日 発行
第14号
四恩への報謝
令和3年12月20日 法華感話会 法話 四恩への報謝 住職 及川玄一  いつしか暦も十二月でございます。時の流れの速さを感じている方も多いことと思いますが、概ね順調に十二枚のカレンダー ...
2022年 03月14日 発行
第16号
「少欲知足」
令和4年2月20日 法華感話会 法話 「彼岸に此岸の縁を想う」 住職 及川玄一  お参り下さりありがとうございます。新型コロナウィルスの感染拡大がなかなか収まらず、寒い時期でもあります ...
2022年 04月13日 発行
第17号
「彼岸に此岸の縁を想う」
令和4年3月20日 法華感話会 法話 「彼岸に此岸の縁を想う」 住職 及川玄一  こんにちは。暦は三月に入り、お寺の枝垂桜の枝がだいぶ赤く見えるようになってきました。昨年は花の付きが悪 ...
2022年 02月14日 発行
第15号
「寿」「龍」の掛け軸
令和4年1月20日 法華感話会新年会 法話 本堂にかけられた「寿」「龍」の掛け軸 住職 及川玄一 堂内に掲げられた二幅の掛軸、「寿」と「龍」。「寿」はお正月によく目にする字ですから、お ...
2021年 12月14日 発行
第13号
「不幸も幸運であり得る」
令和3年11月20日 法華感話会 法話 「不幸も幸運であり得る」 住職 及川玄一  みなさん、こんにちは。四月以来の感話会となりました。楽しみに出て来て下さった方もいらっしゃるのではな ...
2022年 05月16日 発行
第18号
「仏さまを渇望する」
令和4年4月20日 法華感話会 法話 「仏さまを渇望する」 住職 及川玄一 本当の自然に触れにくい現代社会               今年は境内の桜が見事に咲き、複数のテレビ番組にも ...
2022年 11月01日 発行
第22号
「水子供養に思う」
令和4年9月20日 法華感話会 法話 「水子供養に思う」 住職 及川玄一   彼岸  荒天の中をお集まりくださいましてありがとうございます。皆様のお姿に信仰の深さというものを教えられて ...
2022年 07月15日 発行
第20号
「慈雨」
令和4年6月20日 法華感話会 法話 「慈雨」 住職 及川玄一 皆さんこんにちは。だいぶ暑くなりました。山内には緑や水が適当にあることもあって気温の上昇とともに蚊が増え始めました。厄介 ...
2022年 09月15日 発行
第21号
「衣食住に見える妙」
令和4年8月20日 法華感話会 法話 「衣食住に見える妙」 住職 及川玄一  皆さん、こんにちは。お参り下さいましてありがとうございます。まだ残暑という気持ちにはなれない暑さですが、こ ...
2022年 06月15日 発行
第19号
「三人の女性の言葉から」
令和4年5月20日 法華感話会 法話 「三人の女性の言葉から」 住職 及川玄一  お参り下さいましてありがとうございます。今、皆さんとお経を読んで、少し汗をかきました。気温が高いことも ...