住職就任のご挨拶

発行日: 2018年 07月01日
季報: 夏 第90号 掲載

住職 及川玄一

 常圓寺第四十世としてこの四月から法務を執らせていただいております。先般書状を差し上げましたが、ここに改めてご挨拶させていただきます。
 京都大本山妙顕寺の三田村貫首さまが三月末日をもっての退任を表明され、その後継として指名されました当山前住職・及川周介上人が京都に赴任されました。このとき私は八王子本立寺の住職であり、新年度もその職責を果たすつもりでおりましたが、思わぬことから四月一日、当山に参りました。本立寺での最後の勤めは四月八日、お釈迦さまの降誕会でした。
 私は昭和三十八年十月、当山先々代住職及川真介上人の長男として本立寺に生まれ、高校までは野球に打ち込む毎日でした。立正大学仏教学部に入学し、教養課程がある埼玉県熊谷校舎時代の二年間は、日蓮宗宗立学寮で起居して僧侶としての基礎を学びました。三年生になって大崎の本校舎に進むとき、叔父である当山前住職・周介上人が本立寺住職に就任。私はその下で学ぶため、随身となって八王子から通学しました。在学中に日蓮宗僧侶としての資格をいただき、道は定まりました。
 とはいえ、若さが先立つばかりの駆け出しの身。見識、経験の不足を補うべく祖父が建立しましたアメリカ・カリフォルニア州サンノゼ市にある妙覚寺別院で助員を務めることと致しました。気候が温暖でハイテク産業の中心地として成長著しいサンノゼでの生活は、とても快適なものでした。さらに二十五歳のとき、縁あってワシントン州シアトル市の日蓮仏教会(寺)に主任(住職)として赴任することとなりました。
 大正時代に日系移民の方々が設立した檀家数八〇軒ほどの小さなお寺でした。檀家の方々のお寺への思いは厚く、若い私にはなかなかに重い任ではありましたが、身心を深く耕す機会でもありました。その時に得た経験はとても大きなもので、現在こうして当山でお務めできますのも、都合八年間にわたるアメリカでの修行があったればこそ、と思っております。お檀家さまにお届けしますこの『季報』は、帰国した私が当山で三年間勤務した折に創刊致しました。在米中に毎月会報を出していた経験から思い立ったものです。
 シアトル時代の平成四年に結婚し、一男一女を授かりました。長女はアメリカ生まれです。平成十一年四月、三十五歳で本立寺住職に就任し、丸十九年間務めました。今、子どもたちは社会人として自立しております。本立寺での年月を振り返ると、お檀家さまの温かいお気持ちが深く広く私を包んでくれました。それが半ば「当たり前」と感じてしまうほど、自然な流れのうちに住職として育てていただいたことに感謝しながら、新たな任務に向かうことができました。
 就任から二カ月。おかげさまで緊張の中にも着実な一歩を踏み出しました。もとより重責は承知の上ですが、お檀家の皆さまから心を寄せていただけるお寺と致すべく努める覚悟でございます。皆さまにおかれましては、何卒よろしくお願い申し上げます。

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